彼方の冬空

山木と言った声が耳に入ってきた感じがした。外には風が引き裂くような暴風の音を響きながらこの機体を横切っている。自分の操縦感のボタンはどうやら故障しているらしい。この機関銃からは既に弾が出てこない。山木、応答しろ、と言う声が受信機から奏でるように耳に入ってくるのだが、もう向こうの田村の方を見て応答すると言う気分にはならなかった。頭上には敵の機体がいくつもの白い雲を尾に描きながらこちらに機関銃を打ってくる。はからずも山木は自分の機体に敵の弾が当たらないのがどうも不思議でならなかった。山木はもうこの場に置いて、自分のこの機体が役立たずの長物であり、自分の役割が何もできないと言う焦りがひどく混み上がってくる。戦友は次々と敵に打たれ、灰色の煙を後尾に吐きながら、急行下して海に落ちている。この場に置いて、自分がいかにすべきか、さらに自分の帰るべき空母榛名は、すでに敵に爆薬が受けられズタズタになっている。数年の訓練でこの一日のために特訓をしてきたのだが、この場に置いて自分が役に立たないと言うことが酷く焦りにつながっている。どうやら空母榛名は、上艦板も既に壊れ、戦友田村にも応答がつかない。この場に置いて敵に向かう以外に方法はなく、彼は田村に窓越しに敬礼し、微笑みを顔に浮かべながら、この戦友に合図を送るのであった。山木の機体は急行下してまっすぐに敵艦隊に突撃するのであった。田村はさらに戦友の山木に敬礼をして本機体は着陸できる代物ではなく、既に各飛行機は帰る場所もなく、さらに燃料は尽き、これからいかにして戦おう。あるいは帰還するかと言う事は予想以外のものであって、あるいは個人がいかに敵を巻き沿いにして、海に叩き込むかどうかということが、一つの自分の支えの考えになって前に進むと言うことに救われを求めるのであった。既に空は、青空は過ぎ去り。灰色の冬の空が一面覆い。そこに一点の炎の紅の色が大きい海の度真ん中に高く、さらに白く登っているのであった。

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